高安動脈炎

高安動脈炎は、大動脈およびその主要分枝や肺動脈、冠動脈に炎症性壁肥厚をきたし、狭窄(血管が細くなる)、閉塞(血管が詰まる)または拡張病変(動脈瘤など)を来たす原因不明の非特異的大型血管炎です。かつては大動脈炎症候群と呼ばれていましたが、2014年の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)で指定難病として高安動脈炎に変更されたことをうけて高安動脈炎に統一されました。

1.症状

性差は女性に多い病気です。症状は炎症によっておこる全身症状(発熱、全身倦怠感、易疲労感)、狭窄ないし閉塞を来たした血管の臓器の虚血症状、もしくは拡張した血管(動脈瘤)が原因となっておこります。各臓器症状としては、頭頸部症状(頸部痛、めまい、頭痛、失神発作)、眼症状(視力障害)、上肢症状(脈なし、しびれ、冷感)、心症状(息切れ、動悸)などがあります。

2.検査

病気の活動性や形態学的な評価をするために行います。主には血液検査、造影CT検査、MRI/MRA検査などが行われ、必要に応じてエコー、PET、SPECTなどの検査が行われます。

3.診断

臨床症状と画像診断を中心に行われます。診断基準は下記のうち、A)1項目以上の症状と、B)大動脈とその第一次分枝※aの両方あるいはどちらかに検出される、多発性※bまたはびまん性の肥厚性病変※c、狭窄性病変(閉塞を含む)※dあるいは拡張性病変(瘤を含む)※dのいずれかの所見、C)鑑別疾患を除外できるとなっています。

A)症状

  1. 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、リンパ節腫脹(頸部)、若年者の高血圧
  2. 疼痛:頸動脈痛、胸痛、背部痛、腰痛、肩痛、上肢痛、下肢痛
  3. 眼症状:一過性又は持続性の視力障害、眼前明暗感、失明、眼底変化(低血圧眼底、高血圧眼底)
  4. 頭頸部症状:頭痛、歯痛、顎跛行、めまい、難聴、耳鳴、失神発作、頸部血管雑音、片麻痺
  5. 上肢症状:しびれ感、冷感、拳上困難、上肢跛行、上肢の脈拍及び血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱、消失、10mmHg以上の血圧左右差)、脈圧の亢進(大動脈弁閉鎖不全症と関連する)
  6. 下肢症状:しびれ感、冷感、脱力、下肢跛行、下肢の脈拍及び血圧異常(下肢動脈の拍動亢進あるいは減弱、血圧低下、上下肢血圧差)
  7. 胸部症状:息切れ、動悸、呼吸困難、血痰、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈、心雑音、背部血管雑音
  8. 腹部症状:腹部血管雑音、潰瘍性大腸炎の合併
  9. 皮膚症状:結節性紅斑

B)検査所見

画像検査所見:大動脈とその第一次分枝※aの両方あるいはどちらかに検出される、多発性※bまたはびまん性の肥厚性病変※c、狭窄性病変(閉塞を含む)※dあるいは拡張性病変(瘤を含む)※dの所見

※a 大動脈とその一次分枝とは、大動脈(上行、弓行、胸部下行、腹部下行)、大動脈の一次分枝(冠動脈を含む)、肺動脈、心とする。

※b 多発性とは、上記の2つ以上の動脈または部位、大動脈の2区域以上のいずれかである。

※c 肥厚性病変は、超音波(総頸動脈のマカロニサイン)、造影CT、造影MRI(動脈壁全周性の造影効果)、PET-CT(動脈壁全周性のFDG取り組み)で描出される。

※d 狭窄性病変、拡張性病変は、胸部X線(下行大動脈の波状化)、CT angiography、 MR angiography、心臓超音波検査(大動脈弁閉鎖不全)、血管造影で描出される。上行大動脈は拡張し、大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい。慢性期には、CTにて動脈壁の全周性石炭化、CT angiography、 MR angiographyにて側副血行路の発達が描出される。

4.治療

高安動脈炎の病変は多臓器にわたります。活動性を抑えるための内科治療と形態学的な変化がある血管病変に対する外科治療があります。特に頸部病変を合併時の心臓血管外科の手術を行う場合は、当院では心臓血管外科と合同カンファレンスを行い、合同手術を行っています。

(1)活動性を抑えるための内科治療

ステロイドは炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドを使用し、CRPを指標とした炎症反応の程度と臨床症状に応じて投与量を加減しながら継続的、あるいは間欠的に投与します。

副腎皮質ステロイドの単剤治療に抵抗性もしくは再燃する場合、メトトレキサート(MTX)などの免疫抑制薬や、トシリズマブ(TCZ)などの生物学的薬剤とステロイドの併用投与が有効です。

(2)外科治療

高安動脈炎に対する直達手術も血管内治療も、薬物治療で活動性をコントロールしたうえで実施することで治療成績が向上します。炎症がある状態で実施された観血的治療は、炎症がコントロールされた状態での実施に比較し、術後5年間での合併症の発生率を7倍増加させるという報告や、活動期の手術は死亡率を高くするという報告もあります。このため外科治療の適応決定、実施、術後管理は膠原病内科医、心臓血管外科医、放射線科医、脳神経外科医、脳神経内科医らを含む学際的なチームで対応することが望ましい。

(3)心臓血管外科手術支援

高安動脈炎の胸部大動脈瘤や大動脈弁置換術などの人工心肺下の手術では、頸動脈や鎖骨下動脈に狭窄もしくは閉塞病変を合併していることは珍しくありません。当院では術前に頸動脈病変および脳血流について評価を行い、頸動脈の血行再建の有無や人工心肺時の脳灌流の方法を脳神経外科医と心臓血管外科医で協議したうえで治療に臨んでいます。

高安動脈炎と診断され、内科治療が行われたのちに、胸部大動脈瘤、右総頚動脈狭窄、左総頚動脈閉塞、左鎖骨下動脈狭窄(図A、B)に対し、心臓血管外科との合同手術を行いました。右総頚動脈のエコー所見および脳血流検査(SPECT)の結果から体外循環前に右内頚動脈への人工血管吻合を行い、これを利用した脳灌流を行い低体温循環停止下に左鎖骨下動脈近位側で上行弓部人工血管置換術を行いました。頚部分枝の再建は、人工血管の側枝を用いて腕頭動脈、右総頚動脈への人工血管、および左腋窩動脈に吻合しました(図C)。周術期に脳梗塞の合併なく、術後10日で退院しました。

高安動脈炎による胸部大動脈瘤に対する心臓血管外科との合同手術(右内頸動脈への血行再建あり)

高安動脈炎は内科治療の進歩や早期画像診断、および早期からの治療介入により予後は改善しています。観血的治療が必要な場合は、できる限り活動性のコントロールが出来ている状態で学際的なチームで治療方針を検討し対応することで安全な治療を心がけています。