もやもや病(Willis 動脈輪閉塞症)
1. もやもや病とは
図① MRI画像
もやもや病は脳を栄養する内頚動脈の末梢部分が細くなる病気です。脳の血流が低下し、一時的な手足の麻痺、言語障害などを起こすことがあります。血流不足を補うために【もやもや血管】と呼ばれる脆弱な血管が脳底部や脳室周囲などに発達します。血管の消退、発達具合で血流が足りない場合や脆弱なもやもや血管が破綻する場合に症状が出現します。
図② 血管撮影画像(もやもや病)
図② 血管撮影画像(正常血管)
2. もやもや病の原因
未だ解明されていません。もやもや病患者さんに多い遺伝子変異はありますが、日本人に多い遺伝子変異のため、一つの遺伝子変異のみで病気を発症しているとは考えられていません。もやもや病患者さんの10~20%に家族内にもやもや病の方がいるといわれています。
3. もやもや病の症状
①血流が足りない場合(虚血型)
【脳梗塞】
手足の麻痺やしびれ、呂律不全など、脳の血流低下による症状が一時的に出現します。どの年齢でも発症する可能性があります。小児期には啼泣、運動や楽器演奏などの呼吸数が増加した際に発症し、診断されるケースがあります。呼吸により血中の二酸化炭素濃度が低下すると脳血管が収縮し、血流不足を助長することが原因です。血流低下の程度により、脳梗塞を起こし症状が残ってしまう場合もあります。
②もやもや血管が破綻した場合(出血型)
【脳出血】
脆弱な’もやもや血管’が破綻することにより頭蓋内に出血を起こし、出血の位置により手足の麻痺やしびれ、言語障害などが出現します。罹病期間の長い成人例で起こる場合があります。出血した量が多い場合は、意識障害や生命に関わる場合もあります。
③その他
近年の画像技術の発達によって頭痛などの検査の際にもやもや病が診断される場合もあります。症状が軽い方は、後述する手術治療ではなく画像経過観察を行っていくことになります。
4. もやもや病の診断・検査について
もやもや病と診断し治療方法を決めるために検査を行います。虚血や出血の症状が出現した方には入院検査を行っています。
①MRI
脳梗塞や脳出血の痕がないか確認します。また、脳血管を写す方法によりもやもや血管を確認します。
②脳血管撮影
もやもや病の病態把握、治療方針の決定に有用な検査です。鼠径部の動脈から細いカテーテルを挿入し、造影剤を使用して頭部の血管を撮影します。
③脳血流検査(SPECT検査)
【SPECT】緑から青色が血流低下している部分
点滴から放射性同位体と呼ばれる薬剤を注入し、脳への蓄積量を確認することで脳の血流を評価します。血流低下の程度によって、追加でアセタゾラミドと呼ばれる血管拡張薬を追加し、脳血流の予備能を確認します。
上記検査にはそれぞれ30分から1時間程度かかるため、安静が保てない場合は薬を投与し眠った状態で検査を行います。
④その他
採血により、もやもや病以外の血管狭窄をおこす疾患をお持ちでないか確認します。
頭部CT、胸部レントゲン、心電図など手術可能か判断に必要な検査を行います。
5. 小児慢性特定疾患、指定難病の申請について
もやもや病は、小児慢性特定疾患(18歳未満)と指定難病の対象疾患となっています。検査にて診断基準を満たす場合は、申請の案内をさせて頂きます。認定されると医療費の補助などを受けることができます。
6. もやもや病の治療について
①虚血型もやもや病の場合
検査結果により、脳血流低下が著しく脳梗塞の可能性があると判断された場合は、バイパス手術の適応となります。バイパス術は頭皮の血管と脳の血管を顕微鏡を用いて吻合し脳血流を改善させます。
②出血型もやもや病の場合
一度出血したもやもや病患者様は、再度出血する可能性が高くなります。出血を予防するためには【もやもや血管】の負担を減らす必要があります。虚血型と同じバイパス術を出血側と反対側の順に、1か月ほど期間をあけて行い今後の脳卒中を予防します。
【手術画像】血管吻合前
【手術画像】血管吻合後
③手術が終わった後について
手術の後は脳血流が変化するため、血圧の管理を厳重に行いCT、MRI、SPECTを行います。1週間ほどで血流が落ち着き、創治癒が得られれば術後10日ほどで退院となります。開頭手術となりますが、頭髪は少し剃るのみで髪をおろすと目立たなくなります。
術後3ヶ月目に3泊4日で入院いただき脳血流の評価を行います。