脳動静脈奇形

脳動静脈奇形とは脳の中にできた「血管のかたまり(ナイダス)」で、これは成人になってからできるものではなく、胎児期から小児期に発生します。発見率は年間10万人あたり約1人と言われています。脳動静脈奇形は脳出血やくも膜下出血を起こす場合があります。また出血を起こさなくても、けいれん発作を起こす原因になる場合があります。

脳動静脈奇形の治療適応

脳動静脈奇形の治療のゴールはナイダスに入る血流を無くすことです。放射線治療を含めた手術治療は全ての脳動静脈奇形の患者さんに行うのではなく、主には出血を起こした症例や、脳動静脈奇形の血流による症状がでている症例に対して行います。またけいれんや、頭痛のみの症状の場合でも患者さんの年齢が若い場合は積極的な治療をお勧めしています。

脳動静脈奇形は脳血管障害の病気の中では治療が難しい病気ですが、その難易度および治療の危険性はナイダスの大きさ、機能的な部位にナイダスがあるかどうか、流出静脈の構造によって5段階に分類されています。グレード1の症例(大きさが小さく、非機能部位で構造も複雑で無い)は治療の危険性はそれほど高くありませんが、グレード5の症例は根治的な治療は難しいことがほとんどです。

脳動静脈奇形の治療

けいれん発作が主な症状の場合、発作を抑える薬を内服していただきますが、脳動静脈奇形を治療できる薬剤はありません。

脳動静脈奇形を治療せずに経過観察すると出血発症例では年間の再出血率は初年で6~18%、その後年間2~3%、非出血例では年間出血率が2~4%といわれています。

このため出血例や若年者は積極的な治療をお勧めしています。

治療には、(1)開頭手術、(2)カテーテル治療、(3)ガンマナイフ(放射線治療)があります。非出血例の場合は検査結果や患者さんの状態から(4)経過観察する場合もあります。

(1)開頭手術

病変部分が摘出できるように皮膚切開および頭蓋骨開き、手術用顕微鏡および外視鏡(状況に応じて内視鏡を併用)を用いて行います。ナイダスにつながる動脈を金属製のクリップを用いて遮断および切断し、周囲の脳からナイダスを太い流出静脈にむかって剥離します。最後にこの静脈を切断して摘出します。当院では手術中にカテーテル検査ができるハイブリッド手術室で手術を行い、特に複雑な脳動静脈奇形は術中もカテ―テル検査で流入動脈をリアルタイムに確認しながら全摘出を目指した手術を行っています。

ハイブリッド手術室での脳動静脈奇形摘出術

(2)カテーテル治療

鼡径部から入れたカテーテルをナイダスの中まで進め、ここから液体塞栓物質(Onyx:オニキス、NBCA: ヒストアクリル)を注入してナイダスの血流を減らし、脳動静脈奇形の大きさを小さくする治療です。侵襲度は低いですがカテ―テル治療のみで病気を根治させることは難しく、開頭手術や放射線治療の前に行います。ただし、もともと大きさが小さい脳動静脈奇形やガンマナイフ治療後で小さくなっている脳動静脈奇形は、構造がシンプルであればカテーテル治療での根治も可能です。

ガンマナイフで縮小した脳動静脈奇形に対するカテーテル治療

(3)ガンマナイフ

脳動静脈奇形の大きさが小さいものは根治率も非常に高く、侵襲度も低い治療方法です。深部の病変や非出血例が適しています。照射してから2-3年で脳動静脈奇形が消失することが多く、それまでの期間は出血する危険性が残ります。ガンマナイフ治療は関連施設である大隈病院と連携して治療を行っています。